ときおり依頼があった時に、東日本大震災の語り部をしています。
震災以降、特に被災三県では語り部をしている方々がいらっしゃると思います。
また語り部の育成に力を入れているところもあるでしょう。
私のところにも「語り部の育成をして欲しい」という依頼があることもあります。
そこで、語り部をするにあたって、私が気を付けていることを書いてみます。

現在語り部をしているみなさん、そしてこれから育成しようとしているみなさんの参考になればと思います。

1)中立的な立場で、客観的に語る
語り部をする中で、実はこれが最も重要なポイントではないかと思います。
行政側の意見、大きな被害を受けた被災者の意見、住民としての不満に偏らない話をすること。

客観的に、その場で起きた事実のみを淡々と伝えることが大切ではないかと思います。
オーバーな脚色や、自分の主観的な意見は必要ありません。

話を聞いてどのように感じるのかは、聞いて下さった方自身に任せましょう。

2)伝聞で語るときは、聞いた人が直接体験したことまで
また聞きで「あのときは○○だったらしい」という話はすべきではないでしょう。
それは事実ではないかもしれないからです。

かと言って自分が経験したことには限りがあります。
もっといろいろな出来事を伝えるために、伝聞が全てダメという訳ではありません。
自分の友人・知人・家族などが直接見たこと、経験したことまでなら“確実な話”として話しても良いのではないかと思います。
大切なのは“事実のみを伝える”ということです。

3)意見の押し付けにならないよう注意
震災後に様々な経験をし、苦労をし、憤りを感じたこともあるでしょう。
1)で書いたことにも共通しますが、そこで自分がどう感じたのかという意見を、聞いて下さっている方々に押し付けるべきではありません。
「こんなことがあったから、みなさんも同じ立場だったらこう思いますよね?」という話し方はNG。
感想を述べるとしたら「私はその時こんな風に感じました」という程度にとどめた方が良いでしょう。

4)データを活用する
各市町村で被災状況を公開していると思います。
いわき市でも「週報」という形で人的被害、建物被害などを公開しています。
また空間線量についても福島県内であれば10分ごとのデータが発表されています。
正確なデータを伝えることも大切です。

線量であれば、震災前はどうだったのか。
話を聞きに来てくださっている方々の住んでいる場所はどうなのか。
比べてみるのも良いと思います。

また関連して、私は福島県内であれば農産物の放射線検査(米の全袋検査など)、水産物の試験操業の話、出荷制限の話などを入れています。

5)感謝の気持ちを伝える
震災後の支援に対して、そしてこの地に来て下さったこと、話を聞いてくださったこと。
感謝の気持ちは率直に伝えましょう。

6)その他
なぜこういう話(震災語り部)をするのか。
みなさんが何が目的で話をするのか、考えてみましょう。
・震災時、震災後の状況を知って欲しい
・メディアでは語られない真実を知って欲しい
・震災を忘れないで欲しい
・今後の防災に役立てて欲しい


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【実際に話していること】
では私が実際にどのような内容で話をしているのか。

時間はだいたい1時間〜1時間半程度のことが多く、基本的にバスの車中でお話しさせて頂いています。
・発災当時に私はどこで何をしていたのか、その状況
・発災直後の町の様子(ライフラインの状況、住民の様子)
・避難所での様子(生活や食べ物のことなど)
・いわき市でどのような被害があったのか、人的・建物被害や風評被害について
・いわき市の取り組みなど(農水産物の線量測定や観光PRなど)
・家庭に備えていて欲しいもの(水を汲むためのものなど)
・災害弱者やペットをどのように守るか、何を備えるか
・観光案内所で経験した話
・ラジオ放送で経験した話
・バスの車窓から見えている場所が、震災直後はどうだったのか

などとなりますが、その状況により話の内容は変えています。

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【語り部は有償か無償か】
これは考え方の分かれることだと思います。
ちなみに私は「有償」で語り部をしています。

私の場合は話すことを生業にしていますので、申し訳ありませんが無償ではお引き受けしないことにしています。

伝えて行くために「無償」「ボランティア」でやるべきだ、という意見も否定はしません。
仕事をリタイヤされている方が、自分のライフワークとして無償で語り部をすることも良いと思います。
しかし謝礼をお渡しすることで、被災した地域・人の収入になり、それが町の活性化に繋がると考えれば、私は有償であっても良いのではないかと思っています。


上記はあくまで私の主観で書いていることですので、ご了承ください。
(2015.7.1)